今日も何人もの人を殺した。肉の
………クックック。何を考えてるんだ? あの時に誓ったことを忘れたのか? あの子の復讐を誓った時のことを。復讐の為には手段を選ばないと誓ったことを。
朝と言うには早過ぎて、深夜と言うには遅すぎる時間。未だ太陽は登っておらず、暗闇が住宅街を支配している。その住宅街の一角に存在するアパートのように巨大な建物。アパートと言っても過言ではないその建物。名を「月詠荘」としている近くに在る巨大学園学生専用の寮。そこのある一室から青年の声が聞こえる。
「……今…何時だ?」
青年は未だ睡眠を望む身体に
「しまった……四時五分か。五分程寝過ごした……まあ、良いか」
普通ならば慌てないはずの時間に慌てる青年。
―――シュルルルルルル、ドスッ
青年の目の前を白銀の“何か”が通り過ぎる音と、その“何か”が壁に突き刺さる音。彼は目の前を通り過ぎた“何か”を認識し、軽い溜め息をついた。その“何か”の正体は切れ味が非常に良さそうな磨き上げられた日本刀だった。普通の人間ならば、ここで腰を抜かすだろうが
「何時まで寝ているつもりですか? 鳴神亮……くん?」
「相変わらず、寝起きに恐ろしいことしてくれるね。如月静江さん」
この出来事は既に
「後ろの凄く危険なもので何をしようとしてるんだ?」
亮は返ってくる言葉の半分以上が分かっていながらも、敢えて疑問系で静江に話しかけた。おぞましい返答が返ってくるのは目に見えているようである。
「ええ、これであなたを起こそうかと思いまして」
「起きるどころか、永遠の眠りにつきそうだよ……。それにもう起きてるから良いだろ?」
亮は自分が考えていた物とほぼ同等の返答を理解しながらも、その異常な解答に反発した。しかし、静江に「反発」の二文字はあっさりと切って捨てられる。
「良いわけが無いでしょう。五分もサボってたんですから」
「待った……どうしたら五分寝過ごしただけがサボリになるんだ――――――って!!!」
理不尽とも言える解答に再びの反発を行った亮は、口だけでは無く、朝起きたばかりで碌に動かない身体まで動かす羽目になった。ズドンという凄まじい轟音と共に静江が投げた鉄球が床に減り込んでいた。亮はそれを紙一重で、ただ直感のみで回避した。
「危ないじゃないか……それに他の人が起きたら如何するんだい?」
「起きませんよ。皆さんにはこの睡眠薬でたっぷりと眠ってもらってますから」
亮の頭には「睡眠薬」の言葉が
「……で? 何でこんなことして僕を起こそうと?」
静江は鋭い目つきを更に
「しらばっくれるつもりですか? この寮の家事はあなたに全て任せているはずですよ」
「つまり、朝食を作れと?」
亮はわざと
「分かってるくせに
亮の冗談とも取れる
「……じゃあ、僕の首筋に当たってる薙刀の刃をどうにかして欲しいな。一歩でも動いたら
この言葉で納得したのか、それともこれ以上問答を続ける必要は無いと思ったのか、静江は亮の首筋に突きつけていた薙刀を離すとがさがさと凶器の山を片付け始めた。信じられない筋力で全ての凶器を
「とっとと朝食の準備をして下さい。あと洗濯物も溜まってますからそちらの方もよろしく」
「了解……」
静江は凶器を片付けに何処へともなく、亮は洗濯の準備をする為にそれぞれ歩いていった。
鳴神 亮。彼はなぜ、「月詠荘」の家事を任されているのだろうか? その理由の答は少し長くなる。まず、彼に両親がいないのが第一の要因。そして、寮に入るようなお金を充分に持ち合わせていなかったのが第ニの要因である。そのため、学校へ相談に訪れたのだが……その時に出会ったのが如月 静江である。ちょうど相談中の時に来たのである。これが第三の要因である。それを聞いた静江は“家事を全部する”を条件に亮に居候しても良いと言ったのである。取り敢えず、途方に暮れていた亮は何も考えずに了承してしまったのが第四の要因である。とまあ、様々な要因が絡まって彼はここでこの様な生活を送っているという訳である。
(しかし、本当にあれで良かったのか?)
亮は洗濯を終え、台所で寮生全員分の朝食を作りながら回想していた。あの半分後先考えずに了承したことを後悔しているのだろう。彼は料理する手を止めずに思考を深めていく。
(良かった訳無いな……家事だけじゃないし。契約違反って言いたいな……)
取り敢えず、頭の中で
(しかし、厳しいな……如月さんが自分で壊したものまで僕に直させるし……)
「なにをぼさっとし腐っているのですか? とっとと作ってください。後十分しかないですよ。」
亮の思考は静江の言葉で否がおうにも中断される。
「もうすぐ、出来上がるよ」
「そうですか。では皆さんを叩き起こしてきます」
亮は叩き起こすという言葉に苦笑しながら、静江の後姿を見つめていた。そして、早く料理を終わらせないと命が危ないことに気付き、急いで調理を再開した。
「いただきます。」
何事も無いかのように一日が始まる。亮にとっても朝食を取っている他の生徒たちにとってもこれからは学校に行くだけだ。食堂に集まっている亮と静江以外の寮生は何やら顔に小さな
「何か、頭がガンガンするな……」
寮生の一人がボソリと呟く。自分以外の寮生は静江に睡眠薬を飲まされていた恐ろしい事実を知っている亮は苦笑しながら、テレビに目を遣った。テレビではニュースキャスターが淡々と事務的にニュースを読み上げていた。
「今日未明、長谷建設会社社長の長谷満さんとその他十数名が社内で殺害されているのが発見されました。殺された長谷さんの全身には刀で斬られたような切り傷があり、現場は悲惨な状況のようです。また、現場には大量の華が残されていたそうです。詳しく捜査を進める内に長谷さんはマフィア等との繋がりがあったようで警察はそちらの線からも捜査を進めています」
猟奇殺人とも言えるようなニュースにテレビに目を遣っていた数人の寮生が言葉を漏らす。
「全身を刀で斬られたんだってよ、悲惨だな」
「ああ、最近は物騒な事件が多いな」
寮生が猟奇殺人のニュースについての感想を述べる。亮は味噌汁を
「如何かしたの? 如月さん」
「何でも無いですが?」
静江はぶっきらぼうに返答する。しかし、やはり
「ふぅん。でも、何か言ってたよね?」
「しつこいですね。文句でもあるんですか?」
「い、いや……別に。」
十分後。亮は食器の後片付けをしていた。静江は朝食の後片付けの時間まで考慮にいれてくれているから学校には遅刻しない。微妙な気配りはされているようだ。時間があるのを良い事に亮は今朝の事を考えながら、まったりと食器を洗っていた。
(如月さんは朝、何か言ってた
命と引き換えに知りたいとも思えない
鳴神亮にとって普段と何ら変わり無い、一日の始まりだった。